東京高等裁判所 昭和59年(ネ)662号 判決 1986年10月29日
控訴人
浦部興産株式会社
右代表者代表取締役
浦部繁治
右訴訟代理人弁護士
岸上康夫
同
上田幸夫
同
岸上茂
被控訴人
国
右代表者法務大臣
遠藤要
右指定代理人
岩田好二
外一〇名
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取消す。
2 被控訴人は控訴人に対し、金一四六二万一三一九円とこれに対する昭和五四年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
二 控訴の趣旨に対する答弁
控訴棄却
第二 当事者の主張及び証拠
原判決事実摘示(ただし、原判決一三枚目表八行目の「2」を「3」と訂正する。)及び当審証拠目録記載のとおりである。ただし、次のとおり付加する。
(控訴人の当審における付加的陳述)
一 道路の通行者を主たる顧客とするという形で享受する本件道路からの利益は、本件道路の設置に伴う反射的利益に過ぎぬとの原判決の判断は道路交通が発達し、それに伴い本件ドライブイン形式の店舗が隆盛となつて来た特殊性を無視したものである。確かに、道路が新たに設置されるときには当該新設道路沿線の居住者の利益が格別に考慮されることがないのが一般であり、沿道居住者がたまたま何らかの利益を受けることがあつてもその利益は原判決のいうように反射的利益といつてもよいであろう。しかし、道路が設置された後、その沿線に土地を取得し店舗を設け、道路の通行者を顧客とする営業を開始し、それが一定期間継続した本件の控訴人のような場合にあつては、当該店舗経営者の営業上の利益は、たとえそれが当該道路の通行者を主たる顧客とするという形で享受されるものであつても、それは、単なる反射的利益に過ぎないというようなものではなく、法律上保護されるべき財産上の利益であるというべきであり、国家賠償法第二条は、かような利益の侵害についても適用があるというべきである。すなわち、同法第二条第一項は、公の営造物について、その設置管理者である国又は地方公共団体と利用者である個別市民との間の実質的力関係の強弱を考慮し、市民相互間の工作物の設置管理上の瑕疵に基づく損害賠償責任を定めた民法第七一七条に比して、被害者の市民の利益を一層厚く保護したものである。本件の如き場合において控訴人の被つた損害は全て控訴人において受忍すべき限度内であるとするならば、それは「お上」のなす公共事業により、なにがしかの恩恵を受ける住民は、全てその工事によつて受ける被害を受忍すべきであるということになりかねず、国賠法の精神にも反し不当であることが明白である。
二 建設省近畿地方建設局は、昭和六一年六月一四日から同年一〇月一一日にかけて本件店舗及びレストラン前の歩道二〇センチメートルの切削工事及び縁石の切削工事などを開始した。このことは本件道路及び歩道工事には瑕疵があつたことの証左である。
(被控訴人の当審における付加的陳述)
一 控訴人の当審における付加的主張一を争う。
原判決が判示するとおり、控訴人が本件道路の通行者を主たる顧客とするという形で享受する本件道路からの利益は本件道路の設置に伴う反射的利益に過ぎないというべきである。そして、国又は地方公共団体のなす公共事業に伴つて何らかの被害が生じた場合において、その被害が受忍の限度であるか否かを判断するについては、その被害の程度や住民が将来に亘つて直接間接に受ける利益等を総合的に勘案すべきであり、原判決においても右のような総合的判断がなされているのであつて、控訴人の主張一は理由がない。
二 控訴人の当審における付加的主張二のうち、控訴人主張の工事が開始されたことは認めるが、本件道路及び歩道工事に瑕疵があつたことは否認する。右の工事は、従来から訴訟の対象となつている進入口部の段差とは無関係の工事である。
理由
一当裁判所は、控訴人の本訴請求は棄却すべきものと判断する。その理由は原判決の理由と同一であるからこれを引用する(当審で取調べた全ての証拠を加味しても、右認定及び結論を左右しない)。ただし、次のとおり訂正付加する。
1 原判決一九枚目裏九行目「各証言」の次に、「、当審証人村田徳次、同高田勝の各証言」を加える。
2 同二四枚目表八行目「(五)」を「(四)」と改める。
3 同三一枚目表五行目「やむをえない事情があつた。」を「やむを得ない事情があつたのであり、右の諸事情を勘案すれば、本件第二の工事により前記の段差が生じたとしても、未だ道路工事に伴い当該沿道住民が受忍すべき限度を逸脱したものということはできない。」と改める。
4 同三二枚目裏三行目「甲第一〇号証によれば、」から同六行目「なつていること」までを次のとおり改める。
「甲第一〇号証によれば、本件道路工事によるものとして、本件道路工事が長期間に亘つたこと、道路と控訴人店舗入口との段差が大きいため客が入りにくいこと及び道路がUターン禁止であるため客足が減つたことなどが挙げられているけれども、それのみに止まるのではなく、いわゆるオイルショック後の長期不況の影響で客足が減少したこと、同一道路に面した同種競合店の乱立、店舗の老朽化、競争が激しいため値上げが不可能であり、加えて材料、人件費のコストアップを値上げ不能のため売価に転嫁できなかつたこと等が大きな要因となつていると認められること、」
5 同三二枚目裏九行目の「利益に過ぎないこと」の次に、「(この点は、新設道路の場合も既設道路の改修の場合も同様であると解すべきである。)」を加える。
6 同三二枚目裏末行の次に「尚、昭和六一年六月一四日から同年一〇月一一日にかけて控訴人主張の工事が開始されたことは当事者間に争いがないが、右事実から直ちに被控訴人の本件道路管理上の瑕疵を推認することはできない。」を加える。
二以上の理由により、原判決は相当であるから、民訴法三八四条により本件控訴を棄却する。
訴訟費用の負担につき、同法九五条八九条適用
(裁判長裁判官武藤春光 裁判官菅本宣太郎 裁判官秋山賢三)